刑法190条には、死体損壊に関する規定があります。「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。」人が死んだ場合、その体は単なる物となるのが、法律上の扱いです。したがって、死体や遺骨などを損壊しても、物を壊したことになるので、器物損壊罪が成立することになりそうです。
この法律の客体となるのは、死体、遺骨、遺髪、棺に納めてある物です。「死体」とは、死亡した人の身体です。まだ生まれてくる前の胎児でも、人の形を備えていれば、この死体に当たります。
「遺骨」とは、死者の祭祀・記念のために保存し、又は保存すべき骨骸をいいます。火葬後に遺族が持ち替える骨は「遺骨」に当たりますが、遺族が持ち帰らず火葬場の職員に処分を任せた残りの骨については遺骨には当たらないことになります。
「遺髪」とは、死者の祭祀・記念のために保存し、又は保存すべき毛髪をいいます。死後に亡くなった人の部屋を掃除している際に出て来た抜け毛などは「遺髪」には当たらないということになります。
「棺に納めてある物」とは、祭祀・礼拝・記念の直接の目的である死体・遺骨とともに棺内に納められた物をいいます。棺自体は棺内に納められた物とはいえませんが、棺内に入っているものであれば、財産的価値がないものでも「棺に納めてある物」に当たります。
「損壊」とは、物理的に損傷・破壊することをいいます。典型的な例は、殺害した後に死体をバラバラにする行為です。もっとも、別途法律に基づいて行う解剖や臓器移植については、法律に基づいている限り「損壊」とはいえません。
「遺棄」とは、社会通念上埋葬とは認められないような態様で放棄することをいいます。例えば、殺害した死体を発見されるのを防ぐために地中に埋めてしまう行為があげられます。ニュースでたまに見る事件として、亡くなった母の遺体を息子が押入れの中に入れていたというような事件がありますが、仮に息子に母の冥福を祈るなどの行為をしていたとしても、死体遺棄罪が成立することに変わりはありません。一方、殺人犯人が被害者の死体を殺害現場にそのまま放置したとしても、基本的には死体遺棄罪は成立しません。
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